認知行動療法の活用

☆ ☆ 認知行動療法の活用 ☆ ☆

●「認知行動療法」とは 
 「認知行動療法」という言葉をご存知ですか。私は、「心の整体」のようなものではないかと思います。
 今まで薬物治療しか改善の可能性が薄かったうつ病治療において、この認知行動療法によるうつ病症状の改善の傾向を示すデータが揃ってきたことから、リワークプログラム(復職支援プログラム)などでも認知行動療法が採用されるなど、うつ病治療に期待されています。
 「ねこぜ」で姿勢が悪いと、肩がこり、頭痛やめまいが起きてくる。結構つらいものです。でも、整体師さんに「ゴリゴリッ」と直してもらうと、嘘のように体がすっきりと、軽くなり、頭痛や腰痛が楽になって、いきいきと活動することができますね。
それと同様に、「心のしこり」「考え方のくせ」が凝り固まってくると、心にもいろいろと不都合ができ、今まで上手に受け止めてきたストレスに、突然耐えられなくなったり、「うつ病」や「不安障害」などの症状になって表れてきたりします。
 だれにでも普段は意識していませんが、なにげなく心の中に浮かんでくる「自動思考」というものがあります。
 たとえば、会議に向けて準備をしているときに、「失敗したらどうしよう」「失敗してしまうに違いない」など、なんとなく思ってしまう。当日、失敗を恐れるあまり、緊張してあわててしまい、普段の力が出ず、本当にミスをしてしまった。
 このような「自動思考」が偶然にも予想した不幸な結果になってしまった「偶然の一致」により、「やっぱり失敗するんだ」と自分の「自動思考」が「確信」になっていき、「また失敗する」。「私にはできない」と思い込む。そのような悪循環に陥ってしまうことがあります。

 つい思ってしまう「自動認知」は、自分では意外とコントロールできていない場合があります。なんとなく「できないかも・失敗してしまうかも」という思い付きが「自動的に浮かぶ」。その考えに支配されてしまって、良い結果が出せないということがあります。

 そのような「なんとなく考えている」「つい思い込んでしまう」という、心の「しこり」を、自分自身で「とらえ」「書き出し」「話す」こと、「自動思考の言語化」を通して、「はっきりと自覚」する。「認知の修正」をすることにより、「成功体験が増える」。「生き生きと積極的な行動」ができるようになる。
このような「心の整体」を、「認知行動療法」と言います。

心の病気の治療は、治療者(医師やセラピスト)が患者さんの気持ちを受け止め、ともに治療を進めていきます。「認知行動療法」も同じですが、そのあとの対応がより「実践的」「行動的」になります。患者さんの抱えている問題に応じて、「具体的にはどうしていったらいいか」を一緒に探し、生活の中で実際に応用してみるということを重視します。
「認知行動療法」は二つの側面があります。
① 「認知(考え方)」の見直し…認知療法は、考え方に働きかけます。「思考パターン」が極端に悲観的・否定的になっている場合などに、その修正を行います。
② 行動の見直し…行動療法は、行動面に働きかけます。生活には必要ない「不合理な行動」がくせのようになり、「生活上の支障」になっているとき、その習慣を変えることで問題を解決します。

この二つの「認知」と「行動」の側面から、知らず知らずのうちに「しこり」「くせ」
になっている部分を「認知」を変えることで「行動」を変える。逆に「行動」を変えることで「認知」を変えて、問題解決をする。これが「認知行動療法」です。

●イギリスでは「認知行動療法」に国をあげて取り組んでいます
 IATPという政策が打ち出され、国をあげて認知行動療法のセラピストを10,000人養成する取り組みが始まっています。
 イギリスでは6人に1人が抑うつや不安に苦しんでいます。就労不能手当を受給する人が100万人に達するといわれています。そこで、国をあげてセラピストを増員し、「認知行動療法」を実施する機会を増やすことで、苦しんでいる人たちの回復を手助けし、職場復帰を図る政策として期待されています。
 IATPとは、「心理療法へのアクセスを改善する」「心理療法をもっと身近にする」ための政策です。心理療法は主に「認知行動療法」をさし、不安障害・うつ病の治療法として国家的に実践されているのです。

● 本やパソコンを使う、セルフ・ヘルプ式…「うつ病・不安障害かもしれないな…」と「心の不調」感じ始めた人に

 認知行動療法は、段階に応じて大きく5つに分かれています。
 もっとも簡易な形式は、患者さん本人が一人で行う「セルフ・ヘルプ(自分で自分を助ける)式」です。
「病院へ行くのはちょっと…」「自分で何とか治せないかな…」「できれば人にうつかもしれないって、知られたくない…」
 日本では、アメリカやイギリスなどに比べ、精神科、セラピーにかかるということについて、かなり抵抗感があるのが現実です。会社に知られたくない。家族に知られたくない。
というのが正直なところです。もし、自分で何とかできるのなら、何でもいいやってみたい。という方に一度試していただきたい方法です。
 薬の治療法は、非常に苦しんで日常生活に支障が出てきている人に有効ですが、「認知行動療法」は、一度覚えてしまえば、「自転車」の乗り方と同じように、効果が長く持続するという利点があります。
考え方を変えることで、心の「しこり」の元を修正することができるからです。
 肩や腰にハリを感じてきたらストレッチをするように、「心の不調」を感じてきたら、「認知行動療法」によって、「心のこりをほぐす」技術を学ぶことができます。

① セルフ・ヘルプ式
患者さんが本やパソコンを使って、一人で取り組みます。未発症の人に適応します。うつや不安の症状が軽く、まだ本格的な治療は必要としない人向けです。
記入式の「本」。関連のホームページなどで、治療の一部を自習形式で体験できます。
 しかし、あくまでも入門までの知識ですので、本格的に学びたい、より詳しく実践したいという方や、生活に支障が出てきている状態の方は、医療機関などにご相談することをお勧めいたします。

★本を読む★
認知行動療法の解説書を読んで、認知と行動に関する正しい知識を持つ。認知や行動を書き入れて使う記入式の本(ワークブック)が取り組みやすいです。
本の解説に従って自分の気持ちや考え、行動を紙に書き、自分の心を整理してみます。
それだけでも、新たな視点を発見できる場合があります。

 ★読むことも一つのセラピーになります★
 書店で買った本を読むだけでも、治療の知識を得ることができます。
 必要事項の記入にも取り組めば、認知や行動、感情の整理もできます。
 だれでもすぐに体験できる手法として、近年役立てられています。
 本を読むことが、すなわち認知行動療法というわけではありません。ですが、本を読んでから医療機関で本格的な認知行動療法を受ければ、読書で得て知識や技術は治療の下支えとして、十分に発揮します。
 ただし、読書をする元気さえない人もいます。自分の状況を書きだすことが苦手な人もいます。だれにでも「読書療法」が合うとは限りません。治療の入り口としては、ほかにも、同じような状態の患者同士で話し合うグループ形式や、医師とのセラピーなど、たくさんあります。自分に合ったものを探してみましょう。

☆図書☆
「心が晴れるノート」創元社
「子供と若者のための認知行動療法ワークブック」金剛出版
★パソコンを使う
認知行動療法関連のホームページを利用します。他にコンピュータプログラムを用いた治療も一部で行われています。
「ここれん」で、5分間の心の練習ができます。認知行動療法を5分間で部分的に体験できます。
★ホームページ★
☆「ここれん」
http://www.brainway.jp/kokoren/index.html
☆認知行動療法センター
http://www.ncnp.go.jp/cbt/about.html
☆厚生労働省 うつ病の認知療法・認知行動療法
(患者さんのための資料)
http://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/kokoro/dl/04.pdf
★海外で行われているコンピュータソフト
日本では、認知行動療法のパソコンの利用がまだ始まったばかりですが、イギリスではすでに100種ほど開発されています。そのうちのいくつかは実際に医療現場で活用されています。「ビーティング・ザ・ブルーズ」「フィア・ファイター」などの、医療保険適用となったソフトもあります。

② アシスト付きセルフ・ヘルプ式
 通院し、アドバイスを受けながらセルフ・ヘルプ式を行います。軽傷の人に適応します。
 セルフ・ヘルプCBTに取り組む際、医師やセラピストなどから助言を受けると、より的確に作業できます。
 また、ほろりではあきらめそうなときに、治療者の存在が支えになります。
 基本的には患者さんが一人で取り組みます。本やパソコンなどを活用します。
 さらに通院して、「解釈のしかた」や作業の進め方などについて医師にアドバイスをもらい、サポートしてもらいます。
 理解が深まり、治療意欲が高まるなどの治療効果があります。
 本格的な治療とは形式が異なるため、認知行動療法本来の治癒効果まではありませんが、専門的なセラピストでなくとも、患者さんをサポートすることができます。
 患者さんも医療機関も取り組みやすいという特徴があります。

★病院の精神科やメンタルクリニックなどを受診します★
 認知行動療法に詳しい治療者が望ましいです。
 
③ CBTアプローチ
 本やパソコンだけでは治療の概要がつかめない場合は、治療者からもっと詳しく話を聞きましょう。診察の時に質問をしたり、セミナーに参加したりするなど、理解が深まります。
 CBTアプローチは「治療」というよりは、「教育」のほうに近いです。
講義形式:認知行動療法に関する一般向けのセミナー・講義などに参加します。
 質疑応答のチャンスがある場合もあります。
 心理教育:医療機関を受診して、病気や治療法について説明してもらいます。心理的に納得できます。
 
 医療機関・関連機関などが主催する会に参加する。開催情報は、医療機関でも教えてもらえます。
 セラピストが一般向けに講演を行うこともあります。その機会を利用しましょう。
 
☆認知行動療法センター:研修・研究・セミナーの情報が掲載されています。
http://www.ncnp.go.jp/cbt/about.html
④ 集団CBT
他の患者さんと取り組む集団認知行動療法です。
まず、医療機関で治療プログラムに参加する必要があります。その後、グループで一緒に取り組む治療が広く行われています。
 本格的な認知行動療法は、集団向けと個人向けの2種類に分かれています。
 集団向けは、数人の患者さんが集まって実践するもの。定期的に集まって「セッション」を行います。数か月間かけて状態の改善を目指します。
 3~10人の患者さんが医師やセラピストのもとに集まります。スタッフは2~3人です。
 状態の近い患者さん同士で集まるのが基本です。医療機関の一室や会議室で行います。
 うつ病や不安障害などのデイケア施設で、芸術作業療法やレクリエーションなどの各種の取り組みのなかの一つとして、実施されている場合が多いです。医療機関に問い合わせをしてみましょう。

(どのようなことをするのでしょうか)
□互いに認め合う…お互いの発言を否定しない。発言に対して拍手や賞賛の言葉をかけて励まし合う
□目標を立てる…グループでの目標、個人としての目標を立てる。治療者と相談して適度なものを設定する。
□ルールを作る…途中参加は不可。個人情報は保護するなどのルールを設ける。治療の枠組み、ルールを全員で守る。
□ほかの人の様子も見る…ほかの人の考え方や、症状などを見て、共感したり客観的な視点に気づいたりする。
□人前で発表する…一人ひとりが治療に取り組んだ結果をメンバーの前で報告する。全員が均等に発言する。
(これらの取り組みで得られること)
・悩みや問題に一緒に取り組む仲間ができる。「自分だけじゃない」「一緒に頑張る」という精神的な支えとなる
・グループへの一体感や、仲間意識がめばえ、治療へ意欲が出てくる。また、治療が続きやすくなる
・熟練した治療者一人で数人の患者さんを担当でき、費用を抑えることができる。
・他の人が症状を克服していく過程を見ているうちに、自分もできると思えてくる。

 集団療法に参加して、仲間を得ることができると、さまざまな影響が得られます。
 仲間に刺激されて、治療意欲が高まります。他の人が話している様子から、客観的に自分の症状についても見ることができるようになります。
 また、症状が改善していく人を見て、意欲が高まったり、目標ができ、継続しやすくなったりします。
 集団行動に強い抵抗感がない人には、良い選択肢となります。
 しかし、個々に抱える問題は同じとは限りません。個人の課題に完全に合わせることには限界があります。十分な効果が得られなかった場合は、個人療法がよいでしょう。

⑤ 個人CBT
治療効果が最も高い形式です。医師と患者が一対一で熟練したセラピストからの認知行動療法を受けるものです。
 専門医を受診して、数か月間一緒に取り組みます。
 個人CBTでも、集団CBTと同様に治療の「セッション」を繰り返します。患者さんと治療者とリラックスした中で、じっくり語り合います。
 1週間に1回程度の心療を12回程度行います。3か月~半年ほどかけます。
 
 個人CBTは、認知行動療法の本来の姿です。患者さんの認知や行動感情を、治療者が丁寧に引きだし、悪循環を見つけ、一緒に問題解決の出口を探します。
 認知行動療法に関する多くの実証結果が、個人CBTによって出され、その効果が高く評価されています。
 他の形式よりも、手間や時間、費用も掛かりますが、その分効果が十分に高いのです。
 日本にはまだ専門家が少なく、普及していませんが、認知行動療法の医療保険適用が実現したため、今後各地に広がる可能性が高まっています。

・個人の状況に合わせてじっくりと取り組むため、非常に効果が高い。実証もされている
・定められた治療の内容があり、段階的・計画的に進めることができる。
・治療の経過が安定する
・治療には専門医が携わる。知識豊富で様々な質問に答えてもらえる

★精神科やメンタルクリニックで、専門的な認知行動療法の全12回程度のセッションを行っているところを受診しましょう。現時点では、ご自分で探すのは難しいため、今かかっている主治医に紹介してもらうのがベストかと思われます。
 認知行動療法を実施している期間は限られています。 
★JACT日本認知療法学会
http://jact.umin.jp/manual.shtml

●「コラム法」書いて発見しよう

 「コラム法」は考えを用紙に記入して整理する方法です。
 「コラム」とは、学習シートの枠組みのことです。コラム法で用いるシートは、2・3個の枠構成されたもの、7枠で構成されたものなど、さまざまな種類があります。
 少ない列から初めて、だんだん増やしていくこともできます。
 まず、自分が毎日取り組めそうなものを選び、実践します。
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 出来事:(例)上司に仕事上のミスをひどく注意された。
 感情 :(例)憂うつ
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 これについて書き出していきます。
★2つのコラム法
① その時の考え…上司は自分を嫌っている
② 別の考え  …上司は自分を大事に思っていて、指導をしてくれただけ
※①は日頃考えている自分の考えで、パッと思いついたものを書く。②は、ほかの考え方を思いつく限り書いていく。記入することが苦手な人も取り組みやすいコラムです。
★7つのコラム法
①  出来事   …9月○日上司に仕事上のミスを厳しく注意された
②  認知(考え)…上司は自分を嫌っている
③  感情    …不安(90点)
④  考えの根拠 …注意した声が荒々しい大声だったから
⑤  考えへの反証…注意の後で自分にわかるように詳しく説明してくれた
⑥  合理的思考 …上司は自分を大事に思っていて、一生懸命指導してくれた
⑦  心の変化  …不安な気持ちが減った(90点→50点へ減った)

★JACT日本認知療法学会
http://jact.umin.jp/manual.shtml
こちらにも自動思考記録票(コラム表)のダウンロードできるものがあります。
① 状 況 …いつ・どこで・誰が(いた人)・何をした
② 気 分 …一言でいうと        (□%)
③ 自動思考…その時にパッと浮かんだ気持ち
     イメージや記憶
④ 根 拠 …そう考える根拠は、(理由・証拠・事実)
     相手の気持ちを読む内容は避ける
⑤ 反 証 …自動思考とむじゅんする事実を書き出す。「しかし、あの時…」
⑥ 適応思考…現実的なシナリオは何だろうか…
1、第3者の視点から振り返る
「ほかの人が同じ立場だったら、何と言ってあげるだろうか」
 「○○が聞いたら、どうアドバイスをしてくれるだろうか」
2、経験を踏まえて振り返る
 「これまで同じような体験をしたときに、どのように対応したか」
 「そのとき、自分はどのようなことを考えたら、楽になったのか」
 「昔の経験から学んだことで、役に立ちそうなことは何か」
3、もう一度冷静に見直す
 「見逃している点はないでしょうか」
 「自動思考と矛盾する出来事はないでしょうか」
 「自分だけではどうしようもないことについて自分を責めていませんか?」
⑦ 今の気分 …一言でいうと   (□%から□%へ変わった)

「認知行動療法」を通して、じっくりと自分の「自動思考」や「考えのしこり」を自覚するようになれば、自然に「解決法」を実践できるようになります。
 繰り返し、「コラム」をすることで、思考の「しこり」を「ストレッチ」することができるようになります。新しい問題が起きても、自分でその状況を客観的・冷静に受け止めることができ、改善策を自分で考えられるようになるでしょう。
 ホームページで、日本でも「認知行動療法」が急速に進歩してきている様子がうかがえます。ネットや書籍で「認知行動療法」に関する知識を蓄え、変化する環境に適応していきましょう。
 いつか、歯が痛ければ、歯医者さんに行くように、風邪をひいて熱が出たら、主治医に行くように、「心の風邪をひいたら」「セラピー」を受ける。そんなことが、当たり前で、自然な時代が来るよう、心から祈っています。
 私も子供のころは、はらわたがよじれるような悲しい思いをしても、おばあちゃんの作ってくれた「塩おにぎり」で、涙を流し、心を救ってもらいました。あなたにも心にしまった思い出があるはず。懐かしい思いでの小箱を開けることも、あなたの心を洗ってくれるのかもしれませんね。

参考図書:「認知行動療法のすべてがわかる本」講談社 著者:清水栄司